第二章 刳物と臼の道具

臼を作る道具解説(4)台ガンナ(2-8)

台ガンナ(台鉋)

いまでは台ガンナというひとはまずいない。ただ「カンナ」と呼んでいるし、台の形から平ガンナとか反ガンナ、丸ガンナなどと呼ばれている。臼製作ではヤリガンナを主に用いているので、区別を付けるために「台」を付けている。

台ガンナは中国か朝鮮から入ってきた道具で、江戸時代に広く普及し、製材用のオガ(大鋸)とセットで、板の仕上げに使う物だった。元々は柄が付いて押して使うツキガンナだった。それがいつから引いて使うようになったのかは定かではない。台カンナもノコギリも引いて使うのは日本独自のものだ。

ヤリガンナを使う臼職人は台ガンナを上面の仕上げ削りにのみ用いる。台ガンナがない時代はチョウナで削っていた。台ガンナで平らな面を削るのはかなりの技術を要する。臼の場合はそれほどの正確さは必要としないが、とくにケヤキなどの堅い木から作られる臼の上面は木口となるため、削るのは容易ではない。そのため、臼職人のなかには大工に頼んで上面だけ仕上げてもらっていたという話もある。

臼の中を台ガンナの台を丸く削って、刃も円弧状に研いだ丸ガンナを臼用に使う職人もいる。いつの頃使い始めたのかという資料は残っていない。手のひらに収まる小さい丸ガンナは臼専用のものではない。小さい平ガンナを丸ガンナに作り変えることもできるし、丸ガンナそのものも通常の木工具として販売されている。これを台を臼の曲面に合わせて削り、さらに刃を研ぎ直して臼用に使う。

外側を台ガンナで仕上げる臼職人もいる。太鼓職人が臼を作る場合に多いようだ。ケヤキの臼は木目が浮き出て美しい。ただ、今は電気ガンナで削っただけの臼も多い。

臼と台ガンナ

現在は臼の中側を台ガンナで削る職人も多い。内側の仕上げに台を丸くした丸ガンナを使っている。その理由を考えてみた。

1)ヤリガンナより扱いやすい台ガンナに切り替えた説

平らな面を削る台ガンナは仕立てはとても難しいが、臼を削る丸ガンナはそれほどの精度は必要はない。さらに仕立てさえできれば臼の内側を削る作業は容易となる。そのため、扱いにくいヤリガンナから切り替えて使用したのではないか。

2)太鼓職人が使い始めた説

太鼓職人が臼を作ることがある。また、太鼓のをくり抜いた材で臼を作るという話もある。台カンナを使う太鼓職人が、太鼓を作る道具の台カンナで臼を削るようになったのではないか。

3)江戸時代以降の新規参入説

江戸時代に台ガンナが普及したと言われている。そのため、江戸時代以降に臼作りを始めた人たちが普及していた台ガンナを使った。

4)平地臼職人説

江戸時代になると台車などの運搬技術が発達して、山の中で臼を作らなくてもよくなった。そのため、平地の臼職人が使い始めたのではないだろうか。

ヤリガンナは一本で縁の面取りまでできる応用範囲の広い道具だ。それに比べて台ガンナは応用範囲が狭く、複数のカンナが必要になる。山で作業をするにはなるべく道具を少なくしたいもの。それで山で臼を作る職人は台ガンナを使わなかった。

以上はあくまでも仮説なので、確かなことはわからない。