第二章 刳物と臼の道具

臼を作る道具解説(3)ヤリガンナ(2-7)

臼の中の仕上げにヤリガンナを使う。台ガンナが普及する江戸時代まではヤリガンナを使っていた。台ガンナが登場するまではヤリガンナのことはただカンナと呼んでいた。「ヤリ」を付けたのは台ガンナと区別するためだが、槍鉋と書くのは間違い。「鉋」という字は台ガンナのこと。

ヤリガンナは法隆寺でも使われていて、昔は木材の仕上げ削りの一般的な道具だった。板などの平面を削るヤリガンナは押しても引いても削れるように前後に刃がついている。一方、臼用のヤリガンナは中を削るためにJ字型に曲がっていて手前側に刃が付いている。臼の中を削る場合は引いて使う。この曲がりは臼の掘りの曲面に合わせてある。

臼用のヤリガンナは刃の仕立てが難しい。ヤリガンナは外鋼でできているので、内側を棒状の砥石で研ぐことになる。さらに臼の内面に当たる外側を微妙に丸く研いである。この加減で上手く削れるかどうかが決まる。

また、使用方法としては左右の手で削るために、慣れるまでに時間が掛かる。臼の場合は下から上、もしくは右から左に削る。逆方向の左から右には削れないのが欠点で、節などでいろいろな方向で削りたいときはかなり難しい。

臼用のヤリガンナは臼をのぞき込む様な姿勢で削らなくてはならず、腰と背中の負担が大きい。ちなみに手チョウナものぞき込むのは同じだが、左手が空いているので縁を持って体を支えて作業できる。

腰ガンナ・足ガンナ

ヤリガンナの柄をL字にしたもの。テコの原理で足を支点にして体全体で使うようになっているためよりパワフルに削ることができ、削りくずの厚みがヤリガンナと全く違う。恐らくヤリガンナの作業が辛くて、何とか楽に削れないかと試行錯誤して発明されたものだろう。ごく一部の地域の臼職人だけが使っていた特殊な道具だ。

現在は埼玉・飯能とその弟子の神奈川・藤沢の臼職人が今でも使用しているのみ。飯能の職人だけが使っていたのだと思っていたが、青梅でお世話になっている骨董店店主の友人によると東京・五日市で昔使っていたという話を聞くことができた。また、神奈川・藤沢の伐採業者の話では子供の頃(50年以上前)、臼職人を雇って臼を作っていたが、腰ガンナを使っていた、とのこと。その臼職人は神奈川・厚木に住んでいたという。このことから、埼玉・飯能より南の東京・神奈川の山側の地域では使用されていたことになる。