第二章 刳物と臼の道具

臼を作る道具解説(5)仕上げ道具比較(2-9)

仕上げ道具の比較

臼の仕上げ道具であるヤリガンナ、腰ガンナ、丸ガンナ(台ガンナ)を比較してみた。同じように使われる道具だが、どれが最も優れているか様々な視点から比較してみた。反論もあるだろうが、実際に使用した際の個人的な感想だということでご理解いただきたい。

削る能力

(高い) 腰ガンナ>ヤリガンナ=丸ガンナ (低い)

腰ガンナは足を支点に体全体を使うために力が入り、削る能力は圧倒的に高い。とても厚い削り屑となる。ヤリガンナと丸ガンナは仕立て方で変わるがほぼ同じくらいではないだろうか。

繊細さ

(繊細) 丸ガンナ=ヤリガンナ>腰ガンナ (粗い)

丸ガンナは刃先が木台で見えないのが欠点だが、仕立て方で薄く削ることができる。削る能力と繊細さは反比例する。とくに腰ガンナの欠点は視点と刃先が遠いため、どうしても仕上げが粗くなり凹凸が大きくなってしまう。

難易度

(やさしい) 丸ガンナ>ヤリガンナ>腰ガンナ (難しい)

丸ガンナは仕立てさえできていればとても易しく使える。ヤリガンナは使いやすい道具とは言えず、かなりの訓練が必要となる。ただ、腰ガンナほど特殊な道具ではない。

疲労度

(疲れにくい) 腰ガンナ>丸ガンナ>ヤリガンナ (疲れる)

腰ガンナは体全体を使うため疲れにくい。ヤリガンナは覗き込む体制で長い棒状の刃物を動かすので背中と腰の負担が大きい。丸ガンナはヤリガンナほど体制が制約されていない。

研ぎ

(やさしい) 丸ガンナ>ヤリガンナ=腰ガンナ (難しい)

丸ガンナは普通の平砥石で研げるが、ヤリガンナはJ字型の刃の内側を研ぐため、棒状の砥石を使って砥石を動かして研がなくてはなずかなり難しい。ヤリガンナと腰ガンナでは柄がL字で大きい分、腰ガンナの方が研ぎにくい。

仕立て

(やさしい) 丸ガンナ>ヤリガンナ=腰ガンナ (難しい)

手道具は買ったままで使うことはできない。丸ガンナは削りたい臼の曲面に合わせて台を削り直し、刃の形が合わなかった場合は刃も研ぎ直す。しかし、通常の平ガンナほどの精度は必要ないし、刃の研ぎの基本ができれば難しい作業ではない。
ヤリガンナは刃の裏の仕立てが微妙で、わずかに丸く研がなくてはならない。実際には使いながら調整していくしかない。腰ガンナも同様だが、柄が曲がっている分、研ぎと同様で仕立てもやりにくい。ただ、柄を付けるときは真っ直ぐな棒状の柄を付けるヤリガンナに比べて、腰ガンナは鉈のように環をつけ釘を打って付けなくてはならない。

入手・購入

(入手しやすい) 丸ガンナ>ヤリガンナ>腰ガンナ (入手困難)

丸ガンナは一般的な道具として販売されているのでだれでも専門店で購入することができる。ヤリガンナは刃の曲がり具合を図面にしなければ鍛冶屋で作ることができない。さらに腰ガンナを注文するには実際の見本から図面を作成するしかない。購入価格も同じ結果となる。