杵の歴史と臼の関係(5-1)
杵の発祥
杵は独立した道具ではない。必ず搗臼とセットで使われる。もちろん挽臼や摺臼には杵は必要ないが、最初の臼は自然石の搗臼で、杵も自然石だったので、臼の発祥と同時に杵も存在したことになる。最初の杵は自然石で、持ちやすく、搗いたり、摺ったりしやすい形状のものを拾って使っていた。石器時代には木の枝などで杵を作ったかもしれないのだが、その資料は発見できなかった。
木製の杵は弥生時代の竪杵から
木製の杵の出土は弥生時代になってから、ということになる。それは木製の大臼と同時に登場している。当時の杵はすべて竪杵で、枝や細い幹を利用したもので、適当な長さに切って、持ちやすいように中央を細く削ったものだった。構造は単純だが、中には装飾的な溝があったり、突起があったりと、かなり凝ったものも出土している。
縄文時代の終わりから弥生時代は稲作が始まった時代だが、大型の臼と杵は主に米の脱穀・精白に使われた。この頃の現在の臼とは異なり、臼はくびれ臼ですり鉢状に掘られていて、竪杵とセットで使われる。
現在の横杵は江戸時代になってから
横杵の登場はかなり後になってからで、江戸時代になってからとなる。これは現在と同じような胴臼の登場と同じころということになる。
農業の生産技術の向上により、竪杵より生産性が高い横杵が出現したと考えられる。横杵は柄が付いているため、竪杵よりも重い杵を使うことができ、さらに高いところから振り落として搗くことができるため、10倍以上も生産性が上がったという。江戸時代にはいまでは考えられないほど大きな杵を使っていたようだ。
杵の鑑賞(1)形状(5-2)
杵を鑑賞する
杵など鑑賞に値しないのではないか、というひとが多いと思う。臼は骨董店でも扱われるが、杵は臼とのセットで、杵だけを扱うことはほとんどないだろう。ところが、杵も良く観察してみると様々で、その違いを知ることで鑑賞する価値のある物だということがわかるはずだ。
杵の形を鑑賞する
竪杵(タテギネ)
世界的にはこちらが主流となっている。地方によっては「千本杵」と呼ばれることもある。木製の竪杵は弥生時代にはすでに出土している。枝や細い幹などの細く真っ直ぐな丸太材を適当な長さで切断し、中央部分を持ちやすく細く削ってある。太さや長さは様々で、片手用の小型のものもある。2~3人で使うこともあった。くびれ臼ですり鉢状(逆円錐型)の掘り方との組み合わせで使うのが基本。いまではほとんど作られていないが、祭りなどで使われることがある。太さや長さだけではなく、くびれ部分の形状や削り方をチェックしていただきたい。
横杵(ヨコギネ)
現在の日本ではこちらが主流となっている横杵はハンマー型で、太い円筒型の材にカシなどの柄が付いている。その形状から「槌杵」とも呼ばれることもある。登場したのは意外に新しく江戸時代中期といわれている。それまでは竪杵しかなかった。竪杵の「千本杵」に対して横杵は「一本杵」と呼ばれる。
竪杵より重い杵を使うことができるうえ、高く上げることで振り落とすことができるため、格段に生産性が向上した。農業技術の向上に伴い、生産性を高めるために生まれたと考えられる。横杵は胴臼との組で使う。
先の形状が円筒形と八角形がある。八角形のものは角材から作られているためで、丸くするよりも手間が掛からずにできる。手削りでも円筒形ものもあるが、現在は旋盤の挽物で作られることが多いために円筒形が主流となっている。
横杵の柄の長さは通常は80~85㎝ほどで、鍬などの柄の90㎝より短くなっているものが多い。柄の断面も円、楕円、角など様々ある。また、柄の入れ方もキッチリ作られたものは隙間がない。さらに凝ったものは先が四角で手元側の出口が楕円もしくは円になっているものがあり、ゆるみにくいうえに抜けにくくなっている。
杵の鑑賞(2)材質(5-3)
芯持ち材と芯去り材
これは竪杵、横杵ともに関係した材料の取り方になる。丸太から杵をどう作るかということで2種類の方法がある。
芯持ち材
芯持ち材というのは枝や細い幹をそのまま利用するもので、木口を見ると芯があるもの。本来はゴミとなってしまうような細い丸太材を使うため、材料を無駄なく有効活用にはなる。昔はほとんどが芯持ち材で作られていた。しかし、芯から放射状に割れやすいため、現在はほとんど作られていない。また、丸太材の皮を取って丸く削っただけのもので、外側のシラタと呼ばれる柔らかい部分も使用しているため痛みも早い。
芯去り材
芯を避けて材料を木取りする。割れにくいので、現在の杵は芯去り材で作られていることが多い。丸太の芯部分を中心にして2分割、もしくは4分割して杵材とする。そのため、芯持ち材と同じ太さの杵を作るには、2倍以上の太さの丸太材が必要となり、無駄になる部分も多いため、とても高価になる。
竪杵の材質
竪杵の材質についてはあまり詳しい資料がない。弥生時代はカシやツバキなどの堅木が使われていた。恐らく、それ以降もカシなどの堅木を中心に使われていたと考えられる。
横杵の材質
竪杵同様に堅木で作られている。柄はほとんどが白ガシで、希にクリなどの他の材でも作られることがある。
ケヤキ
現在、最も多い臼の材料と同じため、もっとも多く普及している。流通量が多いことや仕入れたケヤキ材で傷や細い部分の臼にできないものを利用できることなども、多く作られる理由のひとつ。ただし、臼の縁を叩いてしまうと割れて壊れてしまうこともある。
カシ
棒屋(柄を作る仕事)が作ることが多い。カシにはその材の色で白ガシと赤ガシがある。赤ガシの方が堅く重いが、白ガシの方が流通量が多く、柄の材料にもなるので、現在のカシの杵は白ガシがほとんど。重いので慣れたひとには使いやすいが、堅いので臼を叩いてしまうと臼のダメージが大きい。
その他の材料
ミズメ、カエデ、ツバキ、オノオレなど、堅い木なら杵になる。
杵を作る道具(5-4)
制作中です。
公開を目指しています。
杵の製作方法(5-5)
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