臼にする木材(3-1)
木臼の材質
臼の材質は現在はほとんどケヤキで作られている。ケヤキは材料が豊富で、現在でも多く流通している。他にはミズメの臼がある。珍しいものではオノオレ(ミネバリ)、マツ、トチ、カエデの臼を見たことがある。
弥生時代は出土品からクスノキやマツの臼だった。江戸時代にはケヤキ、エノキ、クヌギ、カシ、ツバキ、トチ、ブナ、シナ、クリ、クルミなど様々な材料の臼があたったという記録が残っている。
現在はケヤキが主流になっているが、材料が堅ければ良いというものではない。例えばカシはケヤキより堅い木だが臼には不向きだ。それは割れやすい、水に弱いなどの理由による。
ケヤキ(欅)/別名 ツキ(槻)
ニレ科の落葉樹。木目がきれいなことから建築、家具から食器類まで、高級な木工品の材料として幅広く利用されている。赤い材の赤ケヤキと白っぽい材の青ケヤキがある。ケヤキは材木の王様という人もいる。木目の良いものは数が少なく、高値で取引されている。
木臼の材質はケヤキが主流となっている。データはないが、関東ではほぼ100%、全国で見ても90%ほどはケヤキの臼ではないだろうか。
ケヤキは堅く粘りがあり割れにくいという特徴がある。木の繊維が切れにくく、刃物をよく研がないと削れない。カシは同じように堅い木だが、あまり研がなくても削ることができる。臼には堅いだけではなく、粘りがあることが重要で、弾力がありもろくないので、臼にしたときにも耐久性がある。また、ヒビは入るが割れにくい。試しにオノで薪割りをしてみると、短い材でも割ることができない。
太い材料が無くなるのではないか、と心配になるが、ケヤキは少し前までは屋敷林にし、現在は公園や街路樹に多く使われていることから、これらの材料を利用すれば木臼が無くなることはないだろう。
臼にするケヤキはただ太ければ良いというものではない。臼に良い材というと、割れにくい材ということになる。よく臼に最適なのが根元の部分だといわれる。堅くて木目が複雑に絡み合っているので、割れにくく痛みにくい臼になる。しかし、臼は根元材だけで作られているわけではない。臼作りで一番難しいのは材料選びで、職人はそれぞれ独自の材料選びの法則を持っている。高価な材が臼にも良いというわけではない。
ミズメ/別名 アズサ
ミズメザクラとも呼ばれ、東北や信州などの山地では臼の材料にしている。サクラと言っても木肌が似ているだけで、カバノキ科で白樺などの仲間になる。材料が堅く、緻密で割れにくいのが特徴で、赤い材で木目はハッキリとしない。欠点は芯部分が弱く、この部分が痛みやすい。芯部分が弱いから割れにくい、という人もいる。確かに芯を抜くと木は割れにくくなる。近年は太い材料が少なく、ミズメの臼は激減している。
オノオレカンバ/別名 ミネバリ
ミズメと同じカバノキの仲間。とても堅いのでオノが折れる、ということからオノオレと呼ばれるようになった。中部地方より北の山地に生息する。太い材が少なく、たとえ太くなっても芯が痛んで臼にできないことが多いため、オノオレの臼は数が少ない。
木臼と木鉢の比較(3-2)
臼と木鉢の製作方法の違い
臼は他の刳物と大きな違いがある。刳物の木鉢と臼を比較してみるとよくわかる。両者は共に刳物で大きい木鉢は小さい臼と大きさは変わらない。しかし、立木に対しての木取りの方法が異なる。木鉢は丸太の半割り、もしくは板材で作られていて、これを横木取りという。一方、臼は丸太を立てた状態で作るため芯持ち材の竪木取りとなる。タテ木取りの刳物は臼だけで、他の刳物はすべて横木取りで作られている。一部、漆器用の挽物の椀木地などなど竪木取りしているものもあるが、臼とは異なり芯去り材で作られる。
多くの刳物がヨコ木取りの理由は、作りやすいという理由による。刃物で木の繊維の向きに逆らって削ることはできない。そのため、木鉢をはじめとする刳物は上から下に、外縁から中心に削り進めることになる。上から下に掘るのはごく自然な動きで、木鉢職人は手ヂョウナを上から叩き込んで作る。素人でも丸ノミを使えば作ることができる。
しかし、臼は下から上に、中心から外側に削り進めなくてはならない。単純に上から下に形作ることができないため、特殊な掘り方で作らなければならない。もちろん丸ノミでは掘り進むことはできない。主となる道具は手ヂョウナで、木鉢を作る手チョウナと同じ形状だが、手の動きや姿勢が大きく異なる。この削り方が刳物の中で臼だけの特別な作り方となっている。ヤリガンナで仕上げる場合を比較しても、木鉢は前に押して削り、臼は引いて削ることになる。ちなみに木鉢を作る職人はヤリガンナを前ガンナと呼ぶところもある。
臼の製作手順・胴臼(3-3)
臼を作る人々
現在は臼職人はとても稀少になり、旋盤を使った大量生産も行われるようになった。しかし、ひと昔前までは臼作りはもっと身近なことだった。臼職人は昔は臼師といってとくに珍しい職業ではなかった。太鼓屋が臼を作っていたという話もある。また、農家や林業関係者が自分の土地や山のケヤキを伐採して臼を自作したという話も多い。昔の農家は臼だけではなく、作れるものは何でも自作していた。
手道具だけで臼を作る基本手順
臼はとてもシンプルなものだ。丸太を輪切りにしてに窪みを掘れば臼になる。とくに説明することはないのだが、中を掘るときは下から上、もしくは横に削ること。ケヤキで作る場合は堅木なので削るのに苦労する。
現在は手作りといってもチェンソーと電気ガンナだでは使うのが普通。ノコギリやオノがチェンソーに変わり、チョウナが電気ガンナに変わった。
- 1)丸太を用意する。伐採後1年ほど経過した材料で作ることが多い。
- 2)ノコギリで丸太を輪切りにする。
- 3)上面に円を描く。丸太に対して目一杯の円を描く。
- 4)オノやチョウナで荒削りをする
- 5)チョウナか台ガンナで外側は仕上げる。
- 6)ノコギリ、ノミ、手ヂョウナなので取っ手を削る。
- 7)チョウナで底面を整える。ノコギリのままのものもある。
- 8)上面に中側の円を描く。
- 9)臼用のオノで粗掘りする。
- 10)手ヂョウナで削り形を整える。
- 11)チョウナ、台ガンナで上面の仕上げをする。
- 12)臼用のヤリガンナか丸台ガンナで仕上げ削りをする。
- 13)縁を面取りする。
臼の製作手順・くびれ臼(3-4)
くびれ臼のくびれの作り方(山形臼の場合)
くびれ部分は木目方向にしか削ることができないため、節などがあると作るのが非常に難しい。素直な材を選ぶのがコツ。1~4は胴臼の手順と同じ。
- 1)丸太を用意する。伐採後1年ほど経過した材料で作ることが多い。
- 2)ノコギリで丸太を輪切りにする。
- 3)上面に円を描く。丸太に対して目一杯の円を描く。
- 4)オノやチョウナで円筒形に削る。山形ではチョウナは使わない。
- 5)くびれ部分にノコギリで切れ込みを入れる。浅めでよい。
- 6)オノ、チョウナではつる。
- 7)ノコギリでより深く切れ込みを入れる。
- 8)オノ、チョウナではつる。
- 9)希望の深さになったら、山形臼では上部はオノで台カンナ仕上げ、下部はチョウナ仕上げとなる。下部は手ヂョウナで仕上げることもある。
- 10)底面に円筒形の窪みを手ヂョウナやノミで掘る。これが持ち手になる。
くびれ臼は手間が掛かる
くびれ臼を作るのには大変な手間が掛かる。それでもくびれを作るにはもちろん理由がある。山形の例では、原木を山から出すのは大変だったため、山の中で臼を作っていた。作った臼は背負って山から出さなければならない。そのため、運搬を少しでも楽にするため、使用上なくても良い部分を削り取って軽くしたのだという。
臼の製作手順・くびれ臼(3-4)
くびれ臼のくびれの作り方(山形臼の場合)
くびれ部分は木目方向にしか削ることができないため、節などがあると作るのが非常に難しい。素直な材を選ぶのがコツ。1~4は胴臼の手順と同じ。
- 1)丸太を用意する。伐採後1年ほど経過した材料で作ることが多い。
- 2)ノコギリで丸太を輪切りにする。
- 3)上面に円を描く。丸太に対して目一杯の円を描く。
- 4)オノやチョウナで円筒形に削る。山形ではチョウナは使わない。
- 5)くびれ部分にノコギリで切れ込みを入れる。浅めでよい。
- 6)オノ、チョウナではつる。
- 7)ノコギリでより深く切れ込みを入れる。
- 8)オノ、チョウナではつる。
- 9)希望の深さになったら、山形臼では上部はオノで台カンナ仕上げ、下部はチョウナ仕上げとなる。下部は手ヂョウナで仕上げることもある。
- 10)底面に円筒形の窪みを手ヂョウナやノミで掘る。これが持ち手になる。
くびれ臼は手間が掛かる
くびれ臼を作るのには大変な手間が掛かる。それでもくびれを作るにはもちろん理由がある。山形の例では、原木を山から出すのは大変だったため、山の中で臼を作っていた。作った臼は背負って山から出さなければならない。そのため、運搬を少しでも楽にするため、使用上なくても良い部分を削り取って軽くしたのだという。