第五章 杵の研究

杵の鑑賞(1)形状(5-2)

杵を鑑賞する

杵など鑑賞に値しないのではないか、というひとが多いと思う。臼は骨董店でも扱われるが、杵は臼とのセットで、杵だけを扱うことはほとんどないだろう。ところが、杵も良く観察してみると様々で、その違いを知ることで鑑賞する価値のある物だということがわかるはずだ。

杵の形を鑑賞する

竪杵(タテギネ)

世界的にはこちらが主流となっている。地方によっては「千本杵」と呼ばれることもある。木製の竪杵は弥生時代にはすでに出土している。枝や細い幹などの細く真っ直ぐな丸太材を適当な長さで切断し、中央部分を持ちやすく細く削ってある。太さや長さは様々で、片手用の小型のものもある。2~3人で使うこともあった。くびれ臼ですり鉢状(逆円錐型)の掘り方との組み合わせで使うのが基本。いまではほとんど作られていないが、祭りなどで使われることがある。太さや長さだけではなく、くびれ部分の形状や削り方をチェックしていただきたい。

横杵(ヨコギネ)

現在の日本ではこちらが主流となっている横杵はハンマー型で、太い円筒型の材にカシなどの柄が付いている。その形状から「槌杵」とも呼ばれることもある。登場したのは意外に新しく江戸時代中期といわれている。それまでは竪杵しかなかった。竪杵の「千本杵」に対して横杵は「一本杵」と呼ばれる。

竪杵より重い杵を使うことができるうえ、高く上げることで振り落とすことができるため、格段に生産性が向上した。農業技術の向上に伴い、生産性を高めるために生まれたと考えられる。横杵は胴臼との組で使う。

先の形状が円筒形と八角形がある。八角形のものは角材から作られているためで、丸くするよりも手間が掛からずにできる。手削りでも円筒形ものもあるが、現在は旋盤の挽物で作られることが多いために円筒形が主流となっている。

横杵の柄の長さは通常は80~85㎝ほどで、鍬などの柄の90㎝より短くなっているものが多い。柄の断面も円、楕円、角など様々ある。また、柄の入れ方もキッチリ作られたものは隙間がない。さらに凝ったものは先が四角で手元側の出口が楕円もしくは円になっているものがあり、ゆるみにくいうえに抜けにくくなっている。