第四章 臼を鑑賞する

臼の鑑賞(6)ひび割れ(4-7)

ひび割れを見る

臼は丸太の芯持ち材で作られるため、どうしてもひび割れやすい。臼は材料が生か半生の状態で作られているので、購入後の保管でひび割れを少なくできるという。それはゆっくりと乾燥させる。乾燥した場所、風の通しの良い場所、直射日光の当たる場所は避けて保管しなくてはならない。また、臼屋によって異なるが、毛布などを掛ける、逆さにするなどの保管方法があるようだ。当然のことながらひび割れが少ない方が臼としての価値は高い。とくに全くひび割れのない臼はごく僅かしかないのでとても貴重だといえる。

ひび割れにもタイプがあり、上から下まで通っているかどうか、真っ直ぐか曲がっているかなど、入り方や程度、本数なども気になる。

ひび割れの補修

臼のひび割れは湿度の変化によって広がったり閉じたりしている。そのため、ひび割れの補修方法はとても難しく、決定的な方法はないのが実情だ。

ひび割れの補修には大きく二つの方法がある。ひとつはひび割れの広がりを止める方法。もう一つはひび割れを埋める方法である。

ひび割れを止める方法

臼完成後1~2年程度のひびの入り始めに行われることが多い。5年以上経過した臼には効果は期待できない。

鉄輪をはめる方法

臼の外径よりも僅かに小さい鉄輪を作る。これを焼いて膨張させ、輪が少しだけ大きくなったところで臼にはめて冷やすことで、輪が元のサイズに戻り臼が締まるという仕組み。台車の車輪を作るのと同じ高い技術が必要となる。この技術を持っている鍛冶屋も激減していることから、現在はほとんど行われていない。ただ、臼は乾燥すると材料が収縮して径も縮むことになる。そのため、古い臼を見ると大抵は緩んでいるので、本当に割れ止めになっているのかは疑問が残る。

かすがいで止める方法

建築で使用する「かすがい」という「コ」の字型の金具を使用する方法。ひび割れをまたぐように打ち込むことで、割れが広がるのを防ごうというもの。よく目にする方法だが、木材がひび割れる力はとても大きく、かすがいが広がってしまうため、気休め程度の効果しか期待できない。

ちぎりで止める方法

カシなどの堅木を蝶型に作った「ちぎり」を、同じ形の穴を掘ってはめ込む方法。家具などの木工品でも広く使われている。臼上面や側面に入っている。かすがいのように曲がることがないため、強力だとは思うが、割れの強い力でちぎりが割れたり切れたりして壊れてしまったり、ちぎりの端から臼が割れてしまうこともある。また、技術が未熟で正確に入れることができないと全く効果はない。

塗料による方法

ひび割れ防止の塗料というものがある。ウレタン系の合成塗料だと思われるが、ひび割れる前に塗布するもので、最近の臼屋はこの塗料を塗布して販売していることが多い。この塗料が塗られた臼を多く見ているが、それなりにひび割れている。細かいひび割れには効果があるようだが、大きなひび割れについての効果は不明で、塗料のお陰であの程度のひびで収まっているのかもしれない。

ひび割れを埋める方法

臼が乾燥してからの修理方法。ひびが入ったばかりだと、今後広がったときに隙間ができてしまう。臼完成後3~5年以上経過してから補修することが望ましい。

くさび状の木片を入れる方法

臼と同じケヤキ材の木片を幅2~5㎝程度のくさび状にして、打ち込むようにしてひび割れに入れる方法。乾燥で割れが広がったときに取れてしまうため、外側には接着剤を使うのだが、それでも何年かすると取れてしまう。

木屑と接着剤を練って埋める方法

おが屑や木の粉末を接着剤で練った木くそ(本来は漆で練ったものをいう)でヒビを埋める方法。ひびが狭いときに施されることが多い。この修理方法で修理された臼は、臼そのものも合成塗料を塗られていることが多い。