第四章 臼を鑑賞する

臼の鑑賞(5)材料(4-6)

材料を鑑賞する

臼は形状や刀痕だけではなく、材料そのものも興味深い。じつは臼の善し悪しは材料で決まるといっても言い過ぎではない。同じケヤキ材でも個々の育った環境や個性の違いで割れにくかったり、堅く痛みにくかったり。臼職人にとって材料選びがもっとも難しい。原木を扱う業者すべてに共通することだが、思わぬ傷が出たり、割れてしまったりと仕入れに失敗したときは、高い勉強代ということになる。臼を作るのは何年か修行すれば誰にでもできるようになるが、材料選びは一生勉強といえるほど。

木目を観察する

臼の材料はケヤキが多い。ケヤキは導管が太く木目がハッキリしていて美しい。臼の木目もじつに興味深く面白い。どういう木目の材料を臼に使っているかを観察すると、案外さまざまなタイプがあるのがわかる。臼は家具などの木工品とは異なり、木目が細かければ良いというものではないようだ。木目が細かいと材質が柔らかく、粗いものは材質が堅い。そのため、粗い方が臼の寿命は長い。

芯の位置もポイントで、臼は芯部分が痛みやすい。そのため、芯が中心からずれている方が良いとされる。また、芯が2つある臼は木の上部の股の部分の場合が多く、芯と芯の間はとても堅いため良い。中には3つ以上あるものもある。

さらに芯に割れ止め、水漏れ止めとしてくさびを打ってあるものもある。

色を見る

古い臼ではわかりにくいが、ケヤキには赤ケヤキと青ケヤキがある。赤ケヤキは材質が赤く、青ケヤキは材質が黄色、もしくは白い。なぜ黄色いケヤキが青ケヤキかというと、一説には昔は色の呼び名が少なく、黄色も青も青(アオ)と呼んでいたらしい。

赤ケヤキと青ケヤキのどちらが臼に適しているかは単純には決められないが、赤ケヤキの方が高価ではある。

節や傷を見る

節や傷も趣がある。節は枝だった箇所だが、傷は瘤だった場合が多い。枝が雪などで折れて、皮が被ったところが瘤なる。傷が中にあると臼として問題がある場合もあるが、節や瘤は木目が複雑に絡み割れにくくなるというメリットがある。中に傷があった場合は補修方法も見て欲しい。1㎝ほどの丸い埋木はテッポウ虫の可能性がある。テッポウ虫の穴は底まで続いていることも多い。