第三章 木臼を作る

木臼と木鉢の比較(3-2)

臼と木鉢の製作方法の違い

臼は他の刳物と大きな違いがある。刳物の木鉢と臼を比較してみるとよくわかる。両者は共に刳物で大きい木鉢は小さい臼と大きさは変わらない。しかし、立木に対しての木取りの方法が異なる。木鉢は丸太の半割り、もしくは板材で作られていて、これを横木取りという。一方、臼は丸太を立てた状態で作るため芯持ち材の竪木取りとなる。タテ木取りの刳物は臼だけで、他の刳物はすべて横木取りで作られている。一部、漆器用の挽物の椀木地などなど竪木取りしているものもあるが、臼とは異なり芯去り材で作られる。

多くの刳物がヨコ木取りの理由は、作りやすいという理由による。刃物で木の繊維の向きに逆らって削ることはできない。そのため、木鉢をはじめとする刳物は上から下に、外縁から中心に削り進めることになる。上から下に掘るのはごく自然な動きで、木鉢職人は手ヂョウナを上から叩き込んで作る。素人でも丸ノミを使えば作ることができる。

しかし、臼は下から上に、中心から外側に削り進めなくてはならない。単純に上から下に形作ることができないため、特殊な掘り方で作らなければならない。もちろん丸ノミでは掘り進むことはできない。主となる道具は手ヂョウナで、木鉢を作る手チョウナと同じ形状だが、手の動きや姿勢が大きく異なる。この削り方が刳物の中で臼だけの特別な作り方となっている。ヤリガンナで仕上げる場合を比較しても、木鉢は前に押して削り、臼は引いて削ることになる。ちなみに木鉢を作る職人はヤリガンナを前ガンナと呼ぶところもある。