第二章 刳物と臼の道具

臼を作る道具解説(2)手ヂョウナ(2-6)

手ヂョウナとは片手で使うチョウナのこと。刳物では欠かせない道具。木鉢や臼に使う以外にも、挽物の椀木地も手ヂョウナを使うし、杓子も手ヂョウナを使って作る職人がいる。刳物職人はノミを使うことは少ない。その理由を考えてみた。個人的な使用感として手ヂョウナを使うのはノミでは効率が悪いからではないだろうか。手ヂョウナは材料をダイレクトに削っていく。一方、ノミの場合は材料にノミを当てて、木槌か金槌で叩くという2段階の作業工程となる。回数を多く削るときはこの2段階の作業が結構面倒くさい。ノミは刃を材料に当ててから削るので正確さはノミの方が上だが、スピードは手ヂョウナの方が速い。また、手ヂョウナは片手で使うため、片手で材料を押さえることができ、材料の向きを変えるのも早いというメリットもある。正確さが欠点だが、手ヂョウナだけで仕上げられた木鉢があり、慣れた職人が使うと美しい刀痕になる。

臼作りと手ヂョウナ

臼作りでは手ヂョウナが最も大切な道具ではないだろうか。現在の臼作りでは、かつてヤリガンナが台ガンナに移行した職人がいたように、チェンソーや電動工具(とくに電気ガンナ)の登場でノコギリやオノ、チョウナを使用せずに臼を作れるようになった。それでも手ヂョウナだけは使われる。臼の内側の形は手ヂョウナに導かれると言う職人もいるほど、掘り形状を決める最も大切な役割を担っている手道具といえる。

通常手ヂョウナの作業はオノで掘った部分を削り、内側の形を作るのに使われる。オノの掘り痕は凸凹なので、それを整えるのはかなりの重労働となり、臼作りで最も辛い作業となる。オノやチョウナと同様に重い方が使いやすいが、手首の負担が大きく腱鞘炎になることもある。

手ヂョウナの形状にはとくに決まりはなく、職人により様々な形状の手ヂョウナが存在するが、大別すると外鋼と内鋼の2種類ある。どちらを使うかは臼職人により分かれるところだが、仕立てや使用方法にもよるが、外鋼の方がきれいに削れるが削る能力が低く、内鋼の方が削る能力が高いが荒い削りになる傾向がある。手ヂョウナは刃と柄の関係が微妙で臼の善し悪しを左右する繊細な道具。木鉢と同様に臼も手ヂョウナだけで仕上げているものもわずかだが存在する。また、くびれ臼のくびれ部分を手ヂョウナで仕上げているものも多い。タテに削られた鎬(しのぎ)と手ヂョウナの削り痕が美しい。