第二章 刳物と臼の道具

臼を作る道具解説(1)オノとチョウナ(2-5)

オノは大きく分類すると2種類ある。ヨキとタヅキに分けられる。ヨキは木を横に切るオノで、一般に刃の幅が狭い。タヅキは縦に削るためのオノで刃の幅が広く、マサカリとも呼ばれる。こただ、呼び名は地方により異なり、小オノをヨキと呼ばれることが多いが、オノをすべてがヨキ(与岐)と呼ばれたり、大きいオノがマサカリ(鉞)と呼ばれたりもする。ヨキとタヅキはあくまでも使用目的での分類上の区別をするための呼び名と思って欲しい。

オノやチョウナで削ることをハツル(斫る)と表現されることも多い。丸太材を角材にするオノをハツリヨキといい、その作業をする職人をハツリ師と呼ぶ。
臼に使うオノは作業により2種類ある。一つは外側の荒削りようで、普通のオノを使う。使用方法からタヅキ(マサカリ)の部類に入る。もうひとつは中掘り専用のオノで臼の穴を掘るためのもの。こちらはヨキの仲間になる。通常より刃の幅は狭く、長くなっている。

オノは体力が許すかぎり重い方が使い良い。その理由はオノの使い方にある。オノは野球のバットのように振り回してはいけない。重さを利用して勢いを付けて落とすようにして使う道具だ。そのため、重い方が威力があり、材に深く入るというわけだ。臼の穴を掘るのに、オノを上から振り落とすだけでは穴を掘ることはできない。横にも振ることで木の繊維を切って掘り進めていく。
丸太を立ててオノを振り落とすものだから、割れるのではと心配する人もいるが、その心配は無用だ。ケヤキは繊維が複雑に絡んでいるので割るのは容易ではないし、臼になるような大きな丸太を幅の狭い臼用のオノで割ることは不可能だ。

チョウナ(釿)

チョウナを漢字で書くと「釿」だが「手斧」と書かれていることもある。チョウナは削るのではなくはつる(斫る)と表現されることも多い。臼の場合は外側を削る道具として使う。粗削りはオノを使うこともあるが、以後はチョウナ1本で仕上げ削りまで行う。現在は台カンナ仕上げの臼もあるが、台カンナが普及したのは江戸時代なので、それ以前は全てチョウナ仕上げ、もしくはオノで仕上げていた。
弥生時代のチョウナの柄は木の股を利用していたが、現在はエンジュという木を曲げた柄を使っている。チョウナは片刃のものもあるが、通常は両刃を使い、刃の外側を少し丸く研ぐ。こうすることで刃が食い込まずに、エンジュ柄の弾力を利用して弾むように削ることができる。波のような独特の美しい刀痕となる。

エンジュ柄のチョウナで臼を作る職人が多が、臼の材料はとても堅くかなり勢いをつけないと削れない。そこでカシの木槌の先にチョウナの刃をつけたような柄を使っている職人がいる。カシの柄を作る棒屋が使っていた片手で使うチョウナを大型にしたもので、木槌状の部分で重さをプラスすることでよりパワーアップさせようというわけだ。柄に弾力がないのでエンジュの柄とは感覚が異なるが、やはり弾ませるような感覚で削るのがコツ。

チョウナ削りではコブや節があるとそのまま削ったのでは逆目になってしまうため、木の繊維に逆らわないようにらないように向きを変えて削らなくてはならない。柱や板材は削り手が向きを変える。削り手が向きを変えるだけではく、削り痕の方向を揃えるように臼材料を転がさなくてはならない。削る向きを読めるようになるには熟練した技が必要となる。