第二章 刳物と臼の道具

臼を作る道具解説(6)(2-10)

ノコギリ(鋸)

丸太材を輪切りに玉切りするのに使用する。ノコギリは弥生時代には無かった。その後横引きのノコギリが出現したが木の葉型のノコギリだった。木の葉型のノコギリは江戸時代まで使われていた。

縦引きノコギリである製材用の前挽オガ(大鋸)は室町から江戸時代に台ガンナと同じころに出現した。現在でも木挽きと呼ばれる職人が使用している。昔は丸太をくさび(矢)割って板などを作る矢割り製材だった。前挽オガと台ガンナのお陰で曲がった材や割れにくい材が板材として使用できるようになり、木工に革命を起こした。

臼作りでのノコギリの作業は重労働だった。直径50センチほどの丸太を輪切りにするのだから大変な作業だ。刃の仕立てが上手くないと切り口が曲がってしまった。

チェンソー

現在の臼職人でチェンソーを使わないひとはいない。すでにノコギリは過去の道具になってしまった。自転車のチェーンのようなものに刃が付いていて、溝のあるバーのレールに沿ってグルグルと回って材料を切断する道具で、電気式とエンジン式がある。エンジン式はコードがなくパワーがあるので、通常はエンジン式を使う。エンジン式のチェンソーは1900年代の初め頃に登場したのだが、臼作りに使い出したのは1960年代ごろから。臼職人は普通は小回りの利く小さいチェンソーと太い材を切る大きいものを使い分けている。小さいものは排気量40ccほどでバー長を40㎝ぐらいに、大きいものは70cc以上でバー長は60㎝以上のものが使いやすい。

臼職人にとってチェンソーの登場は画期的だった。ノコギリの作業から開放されただけではなく、外側の荒削りでオノも必要なくなった。さらにチェンソーアートのように先を使って中の荒掘りまでこなしてしまう職人もいる。

ただ、堅いケヤキの中を掘るのはチェンソーといえども容易ではない。チェンソーは消音マフラーが付いていないので爆音がする。また振動もすごく、一昔前チェンソーの振動により血行不良となる白ろう病が問題になった。その後改良され、エンジンと持ち手部分が分離され、ゴムやバネで直接振動が来ない防振システムが導入されて低振動になったものの、それでも身体への負担が大きい。チェンソーの説明書には「行政機関では1日の作業を2時間以内とし、1連続作業を10分以内にするように指導している」と記載されている。さらにバーの先端で削るため、キックバックというチェンソーが跳ねる危険もある。爆音と振動を嫌って使用を最小限に控え、中の掘りにはオノを使っている職人もいる。