第二章 刳物と臼の道具

手道具の基礎知識(2-1)

臼の道具は野鍛冶が作っていた

鍛冶屋は分業されている。刀鍛冶はよくテレビで紹介されるが、道具鍛冶だけでもカンナ、ノミや彫刻刀、ノコギリはそれぞれ専門の鍛冶屋が作っている。ところが、臼の専用の特殊な手道具は近所の野鍛冶に作ってもらっていた。

野鍛冶とは農鍛冶とも呼ばれ、スキ(鋤)やクワ(鍬)、カマ(鎌)、ナタ(鉈)などの農業や林業で使う道具を作る鍛冶屋のことだ。しかし、地方の農村、山村では鍛冶屋の何でも屋としての役割があった。臼は主に山間部で作られていたため、大工道具として流通しているもの以外は特注品として野鍛冶に作ってもらっていた。野鍛冶は刀のような工芸品ではないし、カンナやノミのように名作と呼ばれる道具を作っているわけではないため、鍛冶屋としては下に見られていた。陽の当たらない職人の一人といえる。農業の機械化や道具の大量生産によって、野鍛冶の多くは鉄工所などに転業してしまいほとんど姿を消してしまった。現在はチョウナを作る道具鍛冶職人が手ヂョウナを作ってくれているが、跡継ぎはいないそうだ。鍛冶屋がいなくなったら手作りの臼屋もいなくなってしまう。

刃物の基本的な構造

臼を作るうえで手道具の知識と研ぎなどの仕立ての技術は欠かせない。臼用の道具はシンプルな形だが、研ぐにはそれなりの技術が必要となる。そのためには刃物の知識は欠かせない。

日本の刃物は柔らかい地金と堅い鋼で作られている。地金と鋼の組み合わせ方で両刃と片刃に分類できる。両刃は地金に割り込みを入れて鋼をサンドイッチにして鍛接したもので「割り鋼」「割り込み鋼」という。片刃は地金の片側に鋼を張った構造で「付け鋼」となっている。両刃は少なく、オノ、チョウナ、ナタくらいだろう。一方片刃の道具は台ガンナ、ノミ、彫刻刀などがある。片刃の道具は通常は鋼側を真っ平らに研ぐ。切れなくなったら地金側を研ぎ、鋼側は仕上げ砥石で軽く研ぐだけにする。

手道具は仕立てて使う

手道具は購入したままでは使えず、仕立てが必要になる。それぞれの職人が使いやすいように、自分で仕立てをすることを前提に作られている。大工道具の場合は台カンナは刃がきつくて入らないし、ノミは環が入らない。刃も正確に研ぎ直さなくてはならない。ゲンノウは柄が付いていない。例外として素人向けに「すぐ使い」や「仕立て済み」などと表示のあるものもある。

臼の場合はより仕立てが難しい。鍛冶屋は図面か見本に合わせて作ってくれるが、特殊な使用方法のため細かいところは当然わからない。そのため、通常の大工道具の仕立て技術だけではなく、特殊な技術が要求される。

刃物の形状に合わせて砥石を切ったり、丸い棒状にしなくてはならない。通常は砥石を置いて刃物を動かして研ぐとことを、逆に刃物を固定して砥石を手に持って研がなくてはならない。刃の角度を変えたり、グラインダーで形状を変えることもある。

例えば、U字に内側に曲がったヤリガンナは曲がり具合は鍛冶屋に任せるしかないが、刃の付け方も臼の中の曲面に合わせなければならない。ヤリガンナは片刃で鋼が外側に付いているで内側を棒状の砥石を作って研ぎ、外側の鋼側をわざと少し丸刃(ハマグリ刃)に研いでいる。